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Newtonライト『大宇宙への旅』刊行記念イベントレポート
渡部潤一 × 黒田有彩 × ニュートン編集部

宇宙の果てまで旅したい!

 

Newtonライト第2弾『大宇宙への旅』刊行を記念し,“大宇宙の魅力”について楽しく語るトークイベントが2017年9月3日(日)に東京・下北沢の書店「B&B」で開催されました。イベントでは国立天文台の4次元デジタルビューワー「Mitaka(みたか)」も使いながら,同書のベースとなった特集の監修者である渡部潤一・国立天文台副台長と,“Newton読者代表”のタレント・黒田有彩さんが,たっぷりと宇宙トークに花を咲かせました。そのようすをご紹介します。

 

渡部潤一(国立天文台副台長)

渡部潤一(わたなべ・じゅんいち)
国立天文台 教授・副台長。小学校6年生のときに企画したジャコビニ流星群の観察会をきっかけに天文学者の道へ。宇宙や天文の魅力をわかりやすく解説することで知られる。専門は太陽系の流星や彗星の研究で,2006年に冥王星を惑星から除外した国際天文学連合「惑星の定義委員会」の7人の委員の1人。
Q:一番好きな星は? A:ぼくはカノープス。見ると40日寿命が延びると言われている星です。

 

黒田有彩(タレント)

黒田有彩(くろだ・ありさ)
中学時代,作文コンクールで入賞し,NASAを訪問したことをきっかけに宇宙の虜に。宇宙飛行士の試験に必要となる専門分野での“実務経験”を「タレントとして宇宙の魅力を発信すること」と定め,JAXA宇宙飛行士試験の受験を目指している。
Q:一番好きな星は? A:さそり座生まれなので,アンタレスが好きです。自分の星って思ってます!

 
渡部 黒田さんも行かれたそうですが,僕も今年8月21日にアメリカへ皆既日食を見に行ってきました。日食を見るのは,今回で11回目で。

黒田 すごいですね!

渡部 僕なんかまだまだで,同僚は40回行ってますよ。まあ,皆既日食だけじゃなくて金環日食もふくめてですが。わざわざ海外まで,金環日食を見には,僕は行かない(笑)。

黒田 私は,金環日食は日本で見たことがありましたが,皆既日食は初めてでした。アメリカのワイオミング州のキャスパーという小さな町で見たのですが,世界中から人が集まっていて。

渡部 アメリカ大陸を横断する日食というのはなかなかめずらしいので,全米でもり上がってましたね。
 今回の皆既日食は「サロス145」というものでした。サロス周期っていうものがあって,周期ごとに同じような条件の日食が地球上で起こるんです。周期は18年10日にプラス8時間なので,日食が起こる位置が地球の3分の1自転分,ずれていきます。
 前回は1999年の8月にヨーロッパでありました。次は,2035年9月2日,日本で起こります。北関東から北陸に抜けるかたちで,今回のアメリカ同様,皆既の状態は2分30秒くらいです。

黒田 皆既日食を見終わったあと,感動でため息ばかりついていました。2035年もぜひ,見たいですね。

アメリカで観測された皆既日食

アメリカで観測された皆既日食(画像クレジット: 花山秀和,福島英雄)



見るのもすきだし,行ってもみたい!

黒田 今,宇宙飛行士になるための勉強をしています。
 大学では物理学を専攻しました。小さいころから,いろんなことをすぐ不思議がる性格で。だから,たとえば相対性理論は不思議の塊でした。教科書には書かれていないその先を知りたいと思っていました。
 遠くであればあるほど過去を見ているということも,地球のスケールで生活していたら直感的には理解できないですよね。そういう宇宙の一つ一つが魅力的でドキドキするんです。

渡部 黒田さんみたいなタイプの宇宙好きは,めずらしいかもしれない。
 宇宙好きにはタイプが二つあって,いわゆる宇宙飛行士,アストロノーツにあこがれるような人たちは,「行きたい!」 って冒険心が強くて,星を見ててもあまり興味がわいてこない。
 一方で天文学者,アストロノマーは,宇宙に行くなんて事故率考えたら絶対いや(笑)。
 でも,たまに突然変異がいて,宇宙飛行士の土井隆雄さんは,日本人宇宙飛行士の中では唯一,両方の人なんですよ。宇宙飛行士だけれども,超新星を発見してしまうほどの。
 黒田さんは,土井さんの後を継ぐ宇宙飛行士になれるかもしれないね。


宇宙の果てまで行ける「Mitaka」

イベントでは,国立天文台が開発した4次元デジタルビューワー「Mitaka」をスクリーンに映し,地球から遠ざかる宇宙の旅に出てみました。

黒田 Mitakaでは地球からだと観察しづらい木星の満ち欠けも見られるなど,おもしろいですよね。

渡部 そう,裏に回ったりできるからね。あと,安全に宇宙に行ける(笑)。
 火星と木星の軌道の間あたりに見える点々は,小惑星です。3次元的な位置がわかっているので,それぞれ,本当にある位置に描かれていますよ。今はまだ数万個くらいしかプロットしてないんですが,本当は40万個くらいある。

黒田 Mitakaでは,天の川銀河を抜ける時が一番好きなんです。今まで「天の川=銀河」って教えられてきたけれど,Mitakaで天の川を見たときに,はじめてその意味をしっかり理解できて,すごく感動したんです。

渡部 これで遊んでると,あっという間に1時間とか経っちゃうよね。ブラックホールに近づくと歪むとか,ここまでやるか,っていう開発者の執念がすごい(笑)。
 それにしても,銀河から飛び出して外から眺めると,本当にわれわれは田舎にいることがよくわかるね。

黒田 すごい辺境の地ですよね。

木星の南極/土星の北極

写真左:渡部先生お気に入りの一枚,探査機ジュノーがとらえた木星の南極。木星の帯状の模様が,極地方では規則性がなくなり,渦になる。(画像クレジット: NASA/JPL-Caltech/SwRI/MSSS/Betsy Asher Hall/Gervasio Robles)
写真右:黒田さんお気に入りの一枚,カッシーニがとらえた土星の北極。緯度78度くらいのところで縞模様が六角形になり,安定する。(画像クレジット:NASA/JPL-Caltech/SSI/Hampton University)

 


地球外生命の発見は時間の問題

黒田 渡部先生は,地球外生命体はいるとお考えですか?

渡部 いるに決まってますよ。あと10年くらいしたら,絶対間接的に証拠をつかまえられると思います。

黒田 それはどんなものか,ということまでわかりそうですか?

渡部 そこまではわからないけれど,地球型生命が繁栄している惑星が見つかるのは時間の問題だよね。天文学者は今みんなそう思ってます。というのも,ここ10〜20年の間に判明したことが多くあって。
 さらに,今までは「知的生命探し」って,ただ闇雲にやっていたのだけれど,今はそういう星をねらって探すことができるようになっているので,見つかる確率がぐっと上がっています。すごい時代になってきましたよ。

黒田 知的生命というのは,文明を築いているもの,ということですか。

渡部 そうだね。1970年代にM13っていう球状星団に“手紙”(信号)を出した研究者がいたのだけれど,送る場所まちがえたよね。届くのに2万3500年かかる(笑)。
 けれど5年前に,オーストラリアの先生がグリーゼ581gという星に“手紙”を出したんです。距離は20光年なので,あと15年で向こうに届く。もし知的生命がいたら,返事が届くのは35年後。現実味があるよね。

黒田 文明の成長のぐあいが同じじゃないと,コミュニケーションって難しくないですか?

渡部 天文学者は楽観的なので,文明ってものは,わりと長続きすると思っています。もしコンタクトができたとすると,それは相当進んだ文明に違いないですし,われわれは教えてもらうことの方が多いでしょうね。ただ,いまだに星の中で戦争をやっているような幼い文明に対し,成熟した文明がコンタクトをしようとするかというと,彼らにとって得がないから,多分しない。地球はまだ,侵略するほどの価値もないです(笑)。
 たとえば,赤ちゃんの時は家の中が宇宙ですよね。でも外に出ると,同じような家があって,人がいる。そこでしだいに社会性を身につけていく。
 人類ってまだまだそういう段階なんです。われわれは他人を知らない。他人を知ってようやく,われわれは文明として成長していくと思っています。成長したら,いずれ向こうから連絡が来るかもしれないですね。

黒田 「天文学者は楽観的」,それは宇宙を,遠くを見ているからなんだろうなと感じました。私たちも日常の中で宇宙を想うと,よりハッピーになれそうですね。今日は幸せな時間をありがとうございました。

4次元デジタルビューワー「Mitaka」

4次元デジタルビューワー「Mitaka」の画像。ダウンロードはこちら(現在はWindowsのみ対応。派生版にはMacに対応しているものもあります。)。(画像クレジット: (c)2005 加藤恒彦・4D2U Project・NAOJ)

 


Newtonライト 大宇宙への旅

Newtonライト 第2弾

太陽系を飛びだして,138億光年のかなたへ!
大 宇 宙 へ の 旅

 「Newtonライト」第2弾は『大宇宙への旅』です。宇宙は,どれくらい広いのでしょうか? 遠くの宇宙には何があるのでしょうか? さあ,私たちがよく知る太陽を出発点にして,宇宙の果てをめざす旅に出かけましょう。旅を終える頃には,大宇宙の広さと成り立ちが,すっきりと理解できていることでしょう。

 

Newton 10月号増刊
64ページ・B5変型判

本体680円+税/2017年8月18日(金)発売

 

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