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宇宙天体百科

2019年9月号

今月の星座
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星図の日時

08月01日 23時
08月15日 22時
08月31日 21時
09月15日 20時
09月31日 19時

月の満ち欠け
(星図の月は23時)

08月01日 新月(朔)
08月08日 上弦
08月15日 満月(望)
08月23日 下弦

はくちょう座 X-1

渡部潤一 国立天文台副台長

 夏の星座,はくちょう座は天文ファンにとって名所の多い星座だが,天文学者にとっても名所が多い。その一つがはくちょう座X-1である。その名前からわかるようにX線を放っている天体である。1964年,アメリカ・ニューメキシコ州のホワイトサンズから打ち上げられたロケットに搭載されたX線検出器で発見されたX線源である。
 発見当初は,その位置精度が悪かったため天体が特定できなかったが,1971年になって電波観測により,この天体からの電波がとらえられ,正確な位置が特定された。その場所には HDE 226868というカタログ名の恒星が存在していることがわかった。みかけの明るさは9等だが,表面温度が3万℃もある超巨星で,その半径は太陽の20倍ほどもある。質量は太陽の15倍程度とされている。こうした超巨星は数は少ないとはいえ,あちこちに存在するのに,どうしてHDE226868だけが強力なX線を放っているのだろうか。 

 

ブラックホールの候補として浮上
 観測が進むと原因がわかってきた。どうやら,この恒星は単独で存在しているのではなく,連星系をなしているらしい。その相手はきわめて小さくて重い天体だった。この星の動きを調べると約5.6日周期で何かに振りまわされていることがわかったのである。振りまわされるスピードをよく調べれば,振りまわしている見えない天体の質量に関する情報を得ることができる。
 それによれば,質量は太陽の3倍以上はありそうだった。これは明らかに中性子星(主に中性子からなる高密度な天体。太陽の1.5倍から2.5倍程度の質量とされている)の理論的に予想される質量よりも重い。ゆえに,この見えない天体はブラックホールの可能性が高くなった。
 70年代には,はくちょう座X-1はブラックホールであるという見方が強くなっていった。それは想定される質量だけでなく,X線が秒以下の単位というきわめて短時間で変化することからも予想された。変化の時間スケールは天体の大きさに直結するからだ。1秒以下ということは,そのX線を発している領域がきわめてコンパクトであることを示している。超巨星のガスがブラックホールに流れこみ,高速で回転する円盤(降着円盤)を形成し,円盤中のガスが圧縮・加熱され,そこからX線が放たれるのだ。X線源の中では,ブラックホールであることがほぼ確実となった最初の例といえる。

 

若い星の集団のメンバー
 70年代,この天体がブラックホールかどうか,議論されていたころ,スティーブン・ホーキング(1942〜2018)と,のちのノーベル賞受賞者であるキップ・ソーン(1940〜)の間で,賭けが行われていたことは有名である。  1975年,ホーキングはブラックホールではないほうに,ソーンはブラックホールであるほうに賭けをしたようだ。ホーキングが勝ったらイギリスのニュース雑誌「プライベイト・アイ」1年分,ソーンが勝ったら「ペントハウス」1年分をもらえる約束をしたらしい。いずれにしろ,この勝負はソーンの勝ちになるわけである。
 ところで,ブラックホールとHDE226868の連星系は,はくちょう座OB3とよばれる「OBアソシエーション」(大質量星を多く含む若い星の集団)の恒星と似た運動速度をもっている。そのため,そのメンバーであると考えられる。このメンバーには太陽の40倍もの質量をもつ超巨星も含まれており,OBアソシエーションの年齢は約500万年程度と若い。したがって,はくちょう座X-1は,少なくとも500万年程度で進化し,ブラックホールになったと考えられる。太陽の30倍以上はあった超巨星が,その生みの親(元となった天体)であることはまちがいない。
 ちなみに,はくちょう座X-1までの距離は約6000光年で,いっかくじゅう座X-1の約3500光年の次に地球に近いブラックホールである。

8月の星ごよみ

●1日 スターウィーク

7日までがその期間だが,この1週間以外でも夏休みを通して,全国各地の天文関連施設などでさまざまなもよおしが行われる。

●7日 伝統的七夕

各地でライトダウンなどのイベントが行われる。

●10日 水星の西方最大離角

水星が太陽の西に19度ほどはなれ,日の出前の東北東の低空で0等で輝く。水星をながめるチャンス。

12日 土星と月の接近

夕方の南の空で,月が土星に接近する。最接近は17時半ごろで,オーストラリアでは土星食になるが,日本では食にはならない。

●13日 ペルセウス座流星群の極大

12日から14日の明け方,最も流星数が多くなり,1時間あたり十数個は見られる。満月に近い月明かりが邪魔をするので観測条件はよくない。