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Newtonライト『超ひも理論』刊行記念イベントレポート
理論物理学者 橋本幸士 × ニュートン編集部

超ひもナイト in 東京

 

Newtonライト第3弾『超ひも理論』刊行を記念し,「超ひも理論とは何か?」を楽しく語るトークイベントが2017年10月2日(月)に東京・下北沢の書店「B&B」で開催されました。イベントでは,同書のベースとなった特集の監修者である,理論物理学者の橋本幸士・大阪大学教授が,「あらゆる素粒子はひもでできている」とする超ひも理論の基本と魅力について,ざっくばらんに楽しくお話されました。そんなイベントのようすを,一部ご紹介します。

 

橋本幸士(理論物理学者)

橋本幸士(はしもと・こうじ)
大阪大学大学院理学研究科物理学専攻教授。著書に『超ひも理論をパパに習ってみた 天才物理学者・浪速阪教授の70分講義』などがある。エッセイ「エスカレーター問題の解」が『ベスト・エッセイ2017』に収録されるなど,文芸から楽曲の作詞まで,活動は多岐にわたる。

A scientist's life - condensed
https://www.youtube.com/watch?v=_hMaCCDnZ7o

※橋本先生が作られた「理論物理学者の日常がわかる」動画。動画編集だけでなく,なんと作曲まで橋本先生自ら行われたそうです! 


   理論物理学者ってふだん,何をしているのでしょうか。

橋本 私たち理論物理学者は,ある自然現象を説明するために,僕らが「模型」と呼んでいる,いわゆる数式をたくさん大きな黒板などに書いて,議論して,アイデアを深めていく,ということを朝から晩までやっています。このTシャツに書かれている数式も「模型」です。
 科学者っていうのは白衣を着てフラスコを振って……といったイメージをもたれがちですが,理論物理学者にそんな人はいないです。少なくとも,僕はいつもこんな服装です。

   先生のご出演されている動画などを見てみると,計算って全部手書きなんですね。間違えたりはしないのでしょうか?

橋本 よく間違えますよ(笑)。でも「こういう結果になるはずだ」というイメージがあるので,いろんな角度から検証して修正しながら進めます。
 今,世の中には何千何万と模型があって,実験をする人たちが合っているかどうか,一つずつ確かめているんです。
 だから,たとえばヒッグス粒子が発見される(2012年)ような,非常に大きないい実験結果が得られると,その実験と違うことを予言していた模型は全部,“殺されて”しまうんです。

   ショックですよね。何年もかけて自分が積み上げたアイデアが間違ってます,と言われてしまうのは。

橋本 素粒子論には,超ひも理論と,素粒子現象論という分野があり,後者は,毎夜毎夜模型ができては消されるというような修羅の国で(笑)。
 僕はそこに時々行きますが,スゴスゴ帰っていきます。超ひも理論は実験検証が難しいため,のびのびと生きている感じですよ。


橋本先生のお気に入りTシャツ

橋本先生のお気に入りTシャツ。ここに書かれている数式は素粒子の標準理論をあらわしたもの。重力を除くすべての宇宙の素粒子とその相互作用をあらわす。世界はこの式に支配されているという。スイスのジュネーブ郊外にあるヨーロッパ原子核研究機構(CERN)のグッズ。
橋本先生いわく,「僕のように,素粒子に心を売ってしまった人にオススメです!」



超ひも理論で世の中がわかる!

橋本 超ひも理論がわかれば,世の中のしくみがわかります。
 そもそも世の中とは何か。世の中は光であふれていますね。光は,素粒子です。素粒子とは,それ以上小さくできない粒のことです。

 原子というものは10^-10メートルほどの大きさで,中心には原子核があって,その周りを電子が飛んでいる。原子核は,陽子と中性子がくっついてできています。陽子や中性子を作っているさらに小さなもの,それが「クォーク」とよばれる素粒子なんです。今のところ,そのクォークをさらに細かく分けた人はいないんです。

   今後,さらに分けられるかもしれないんですか?

橋本 実は素粒子の定義は,「その時点でこれ以上分けられない」という最小単位のことを指すんです。つまり,素粒子は時代によって変わります。100年前は原子が素粒子でしたし,今のところは,電子やクォークが素粒子です。

   今のところ,というと,その先があるかもしれないんですね。

橋本 そうですね。今のところ知られている素粒子は17種類です。たったこれだけの素粒子で宇宙はできていて,その素粒子どうしのくっつけかたのルールが,このTシャツに書かれています。この,たった4行の式であらわせるんです。人類は,もうそこまで知っているんです。

   まさに人類の知識の金字塔ですね。

橋本 そうですね。ですが,これだけでは説明できない事象が,まだ2,3個あって。その一つが,ニュートリノ振動(梶田隆章博士らによる発見。2015年のノーベル物理学賞)です。

   ニュートリノに質量があった,という発見ですね。それがこの模型とは矛盾すると。

橋本 そうなんです。この式にはニュートリノの質量をあらわす項が入っていません。
 また,そもそも,なんでこんなに多種類の素粒子があるのかということを,説明できた試しがないのです。たとえば光の素粒子,光子がなぜここに入っているかはわからない。式の1行めは光をあらわしていますが,これがなくても,この数式上は別に困らないんです。

   では,なぜあるのでしょう?

橋本 そのことに間接的に答えを出すのが,超ひも理論です。
 光というのは,特定の方向にかたよって振動する「偏光」という,謎の性質をもっています。そして,仮にこの光子が「ひも」だと仮定すると,なぜそのような性質をもっているのかを自動的に説明できるんです。ひもは,ある特定の方向に振動できるため,この偏光という性質をうまく再現してくれるんです。

   ひもであれば,偏光という性質をもっていて当然だと。

橋本 そういうことです。もちろん,誰もこの小さいひもを見た人はいないし,光子がひもであるという直接的証拠は実験では確認されていないので,仮説なんですが。

   とても興味深いですね。超ひも理論についてもっと知りたくなりました!

橋本 それは嬉しいですね。また特集を組んでください(笑)。



高次元の断面図を見てみよう

橋本 超ひも理論が予言する,高次元って,つかみどころがないから想像しにくいんですよね。

   3次元より上の次元を見たことがないのでピンと来ないですね。

橋本 でも,目に見えなくても存在するものってたくさんありますよね。人間は顕微鏡や望遠鏡を開発して,「見る」ってことを拡張してきたわけです。
 今,サイエンスとアートの融合をテーマに活躍されている成田真弥(なりた・しんや)さんと塚田有那(つかだ・ありな)さんのユニット,「ARINARITA LAB」とビジュアルアーティストの山口崇司(やまぐち・たかし)さんと共に,「超ひも理論 知覚化プロジェクト」というものを進めています。(イベントでは「超ひも理論 知覚化プロジェクト」のデモを見ながら,解説をしてもらいました。)
 このプロジェクトでは,僕が書いた数式を元に,山口さんにビジュアル化してもらいました。彼は,僕の書く数式を理解してプログラムを組んでくれる,すごくレアな方で。
 これ(下の画像)は,「4次元のドーナツ」の切り口です。たとえば,3次元のものの断面図は,2次元で表現できますよね。つまり,4次元の断面図は,3次元であらわすことができるんですよ。

   3次元世界の住人であるわれわれが,どうしても見ることができない4次元世界を垣間見る方法がある,ということですか。

橋本 そういうことですね。プロジェクトのWEBサイトには,さらに高次元を可視化した動画もあります。ぜひ,いろいろ見てみて下さい。

 


超ひも理論 知覚化プロジェクトの成果

4次元のドーナツの断面図。3次元の物体として可視化されている。
(画像クレジット:超ひも理論 知覚化プロジェクト)

 


詳細・その他の動画はhttp://www.mimir.tokyo/projects/sst.html



いずれ超ひも理論もノーベル賞?

   今年のノーベル物理学賞は,どの成果に贈られると予想しますか?

橋本 まあ「重力波の直接検出」以外,ないんじゃないですかね。(イベント翌日にノーベル物理学賞の発表があり,見事的中しました! )
 将来,重力波を細かく分解できるとしたら,重力を伝える素粒子とされる「重力子」が見つかるかもしれないと言われているんです。この重力子も,ひもだと考えるだけで,重力ならではの性質が自動的に出てくるんですよ。これもまだ仮説ですが。

   超ひも理論の正しさが実験でわかるのは,かなり遠い未来ですか?

橋本 加速器(未発見の素粒子の探索などを行う大型施設)実験だけでは,遠いかもしれませんね。ひもはものすごく小さいので,解像度を上げるためには,すごいエネルギーが必要なので。でも,宇宙の観測から手がかりを得られるかもしれません。

   たとえば先生の模型が実証されて,超ひも理論が正しいと実験でわかったら,ノーベル賞ですね。

橋本 それはそうでしょうね。でも,まずノーベル賞になるようなネタを思いつかないといけないんですが。

   その時はぜひまた特集させてください! 今日は貴重なお話を,どうもありがとうございました。

 


Newtonライト 超ひも理論

Newtonライト 第3弾

すべては「ひも」で,できている!
超ひも理論

 「Newtonライト」第3弾は,『超ひも理論』です。おどろくことに,超ひも理論によれば,私たちが暮らすこの空間は縦・横・高さの3次元だけでなく,なんと「9次元」もあるといいます。9次元の世界など,本当にあるのでしょうか? もしあるのなら,いったいどこにあるというのでしょうか? この本では,難解ともいわれる超ひも理論のきほんを,とことんやさしく解説します。

 

別冊 ニュートンムック
ISBN 978-4-315-52066-8
64ページ・B5変型判

本体680円+税/2017年9月19日(火)発売