人類は古代より数の探求を続けてきました。物の個数を数えるための「自然数」にはじまり,分数,小数,0 の発明,マイナスの数,また,小数であらわすことのできない無理数など,長い年月をかけて数を探しだし,数直線をすきまなく埋めつくしたのです。しかし数学者たちはさらに,探求のすえに数直線の外にある数にたどり着きました。それが「虚数」です。 虚数とは,「2乗するとマイナスになる」という奇妙な数です。そのため虚数はなかなか受け入れられず,17 世紀フランスの数学者であり哲学者ルネ・デカルトは,虚数を 「imaginary number(想像上の数)」とよびました。しかしその後,虚数は少しずつ受け入れられていき,数学だけでなく物理学の分野でも活躍するようになります。たとえば20世紀に誕生した量子力学において力を発揮します。原子や分子といったミクロの物質のふるまいが,虚数を用いることで計算できるようになったのです。それは宇宙創成の謎にせまる新しい宇宙論の提案にもつながっていきました。現代文明や現代科学の発展は,虚数の発見によって実現したといえるでしょう。 本書は,虚数についてのニュートン先生の講義です。講義といってもむずかしいものではなく,先生と,科学に興味をもっている生徒の会話です。この本を読めば,虚数だけでなく、さまざまな数の探求の歴史を知ることができるでしょう。学校で習う「数学」のイメージが,少し変わるかもしれません。ニュートン先生の楽しい虚数の講義を,どうぞお楽しみください。 |