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宇宙天体百科

2018年7月号

今月の星座
▲クリックすると,拡大画像が表示されます。

星図の日時

06月01日 23時
06月15日 22時
06月30日 21時
07月15日 20時
07月31日 19時

月の満ち欠け
(星図の月は23時)

05月29日 満月(望)
06月07日 下弦
06月14日 新月(朔)
06月20日 上弦
06月28日 満月(望)

球状星団 M8

渡部潤一 国立天文台副台長

 天の川に沿って双眼鏡をすべらせると,意識しなくても星団や星雲をたくさんながめることができる。なかでも夏の天の川が太く明るくなっていくところ,星座でいうと「さそり座」から「いて座」のあたりはとても見ごたえがある。いわば夜空の観光名所がたくさんある領域だ。
 そんな名所の一つが,メシエカタログ(フランスの天文学者シャルル・メシエ(1730〜1817)が作成した,恒星以外の星雲や星団,銀河の位置を掲載した天体リスト。Mはメシエのイニシャル。)に登録されている「M8」という星雲である。星雲の全体が干潟のように見えるため,「干潟星雲(Lagoon Nebula)」という通称でよばれている。
 M8は,いて座の近くに位置しており,さがしやすい。M8の明るさは6等,長径は満月の3倍もあるので,夜空の条件がよければ肉眼でも見えるほどである。ちなみに,北半球から肉眼で見える星雲は,M8と「オリオン大星雲」しかない。
 M8の地球からの距離はこれまで4000〜6000光年とされ,推定値に幅があった。最近ではこの幅がちぢまり,2006年に発表されたハッブル宇宙望遠鏡の観測データを用いた研究によると,4100光年程度ではないかと推定されている。M8は,みかけの大きさから考えると少なくとも50光年ほどもある巨大な星雲である。  


星が放つ紫外線を受け赤く光る
 M8をよくながめると,いくつかの明るい恒星に気づく。星雲の中心部付近に輝く6等星ほどの星が,「いて座9番星」である。また,これよりやや暗めの7等星が,干潟のふち付近で輝いている。これは「HD165052」という恒星だ。実は,これら二つの恒星によって,M8全体が輝いているといっても過言ではない。どちらも「O型星」というタイプの恒星で,大量の紫外線を放っている巨大な星である。
 星から放たれた紫外線は,星雲中の水素ガスに当たってエネルギーをあたえる。すると,水素原子がもつ電子が励起される(高いエネルギー状態になる)。電子がエネルギーを失って,元の状態に落ち着くときに,特有の赤い色の光(波長656ナノメートル,ナノは10億分の1)が放出される。このため,M8を可視光線で撮影すると上の画像のように赤く写るのである。
 星雲を光らせているO型星はほかにもある。いて座9番星の南西(上の画像では右側)にある「ハーシェル36」だ。これら三つのO型星はすべて「NGC6530」と命名された散開星団に属すると考えられる。NGC6530の星々はきわめて若くて重く,年齢は数百万歳以下だと推定されている。どの星もおそらく,M8の一部から生まれたのだろう。つまり,M8は大質量星の形成領域なのだ。  


煙のように吹きだす,黒い星雲
 M8の中で,ハーシェル36の付近には黒色の濃い部分があり,非常に複雑な構造をしている。まるで,黒っぽい煙が吹きだしているように見える(前ページの画像を参照)。
 その形状から,イギリスの天文学者,ジョン・ハーシェル(1792〜1871)は,この構造を「砂時計星雲(Hourglass Nebula)(はえ座の方向にある,同名の星雲とはことなる)」と名づけた。M8の砂時計星雲は,可視光線で見ることができる。大きな分子雲の中で,星間物質が複雑に作用しながらつくり上げた造形である可能性が高いようだ。この砂時計星雲では,今まさに,多くの星が生みだされている。

星ごよみ

●6月1日 月と土星の接近 

5月31日の深夜から翌6月1日の明け方にかけて,土星に満月すぎの月が接近する。

●6月21日 夏至

太陽の黄経が90度になる。北半球では最も太陽が高く上がり,1年のうちで昼間がいちばん長くなる。

627日 土星の衝

土星がいて座で衝をむかえ,0等で輝く。環もかなり大きく見え,観察の好機である。

●6月28日 火星の留

この日を境に,火星が順行から逆行へと変わり,7月末の地球との大接近に向けて東から西へ動くようになる。

●6月下旬 6月うしかい座流星群の極大

まれに出現する流星群で,1998年に出現したが,その後は姿をみせていない。28日前後に出現する可能性があるが,満月で観測条件は悪い。